歯科経営
「スタッフが定着しないのは歯科業界だから仕方がない」「最近の若いスタッフはすぐ辞める」そう感じている院長も少なくありません。しかし、現場を見渡すと、同じ地域・同じ条件でもスタッフが長く働いている歯科医院は確実に存在します。
スタッフの離職は、単なる人手不足の問題ではなく、経営の在り方や院内環境の“結果”として表れている現象です。
本記事では、スタッフが辞めていく歯科医院で起きている実情を整理し、給与不満の本質、院長のマネジメント、歯科衛生士・女性スタッフ特有の不安、そして人材が定着する組織づくりまでを体系的に解説します。歯科衛生士として現場で働く中で感じてきた「辞めたくなる瞬間」も踏まえ、院長が今こそ見直すべきポイントを明確にします。

歯科医院、とくに歯科衛生士の離職率は高い傾向があります。その理由は、一時的なトラブルではなく「構造的な問題」として起きているケースがほとんどです。加えて歯科衛生士の求人倍率は高く、転職市場では売り手優位が続いています。スタッフ側は「今の職場で我慢し続ける必要はない」という選択肢を常に持っています。
歯科医院は少人数組織であるがゆえに、人間関係や院長の価値観が職場環境に直結します。一度合わないと感じると、その違和感を解消する仕組みがなく、退職という選択に直結しやすいのが実情です。
(出典:厚生労働省医政局歯科保健課 歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業)
スタッフが不足すると、最初に影響が出るのは診療の「質」と「余裕」です。メンテナンス枠が埋められない、アポイント間隔が詰まり説明時間が取れないなど、患者対応の質が低下します。
その結果、クレーム増加やリピート率低下につながり、売上面にも影響が出ます。現場では残ったスタッフの業務負担が増え、「忙しさ」が常態化し、心身ともに余裕を失っていきます。この状態が続くと、さらに離職が起こる悪循環に陥ります。
離職のたびに採用を繰り返す経営は、一見すると問題を解決しているように見えますが、実際にはコストとリスクを積み上げている状態です。求人広告費、紹介手数料、教育にかかる時間と労力は見えにくい経営コストとなります。
さらに、定着しない職場は口コミや評判にも影響し、採用難が加速するという負のスパイラルに陥ります。

「給与が低い」という理由で退職するスタッフの多くは、単純に金額そのものが原因とは限りません。業務量の増加、責任の重さ、求められるスキルに対して報酬が見合っていないと感じたとき、不満は「給与」という形で表れます。
特に、できるスタッフほど業務が集中しやすく、不公平感を抱きやすい点は注意が必要です。
昇給や賞与が「院長の裁量」で決まっている歯科医院では、スタッフは将来の見通しを立てられません。評価基準が不明確なままでは、どれだけ努力しても報われないという感覚が強まります。
金額以上に、「なぜその評価なのか」「どうすれば上がるのか」が説明されないことが、離職の引き金になります。
院長は経営状況を踏まえて「これが限界」と考えていても、その事情がスタッフに共有されていないことが多くあります。その結果、「きちんと評価されていない」「話し合う余地がない」という不信感につながります。院長の経営ビジョンや評価基準をスタッフと共有する必要があります。
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歯科医院では、院長の価値観が良くも悪くも院内文化になります。効率重視なのか、育成重視なのか、その姿勢は日々の言動に表れ、スタッフは敏感に感じ取っています。無意識の一言や態度、トラブル時の振る舞いが職場の雰囲気を悪化させているケースも少なくありません。
上下関係が明確な歯科医院では、院長の指示や注意は、想像以上に重く受け止められます。内容が正しくても伝え方次第でスタッフのモチベーションを下げてしまうことがあります。結果として、報告や質問が減り、ミスが起きやすい環境になります。
相談しにくい職場では、スタッフは悩みや不安を一人で抱え込みます。「ここでは守ってもらえない」と感じた瞬間、転職を意識し始めるケースは非常に多いです。

制度が整っていないこと以前に、「相談しても無駄だ」と感じさせる雰囲気が問題となります。配慮の不足は、突然の離職という形で表面化しやすくなります。
キャリアモデルが見えない職場では、歯科業界そのものに将来性を感じられなくなります。これが離職を加速させる一因です。

教育が場当たり的な歯科医院では、スタッフは成長を感じにくくなります。体系的な教育体制は、安心して働くための基盤です。
スケーリング・ルートプレーニング(SRP)やブラッシング指導(TBI)の技術向上やメンテナンス、患者対応力など、専門性を高められる環境は、歯科衛生士のやりがいと直結します。学び続けられる環境と公平な評価が定着を支えます。
役割やキャリアパスが不明確な職場では、「ここにいても先がない」と感じやすく、離職に繋がります。

離職対策は、「辞めさせない」ことではなく、「辞める理由をなくす」視点が重要です。制度よりもまず、スタッフと向き合う姿勢が問われます。
定期面談は不満を聞くだけでなく、方向性や期待値をすり合わせる場として機能させる必要があります。評価制度や情報共有の透明性が信頼関係を支えます。
心理的安全性とは、全スタッフが院長へミスや疑問、意見を伝えても否定されない状態を指します。心理的安全性が低い職場では報告や相談が遅れ、トラブルが大きくなりがちです。
一方安心して話せる環境では、スタッフは挑戦しやすくなり成長意欲や主体性が高まります。院長は、否定せずに話を聞く姿勢を持ち日常的に感謝や承認を言葉にすることが心理的安全性を高める第一歩となります。
スタッフが辞めていく歯科医院には、給与や人手不足といった表面的な問題だけでなく、評価の不透明さ、パワハラ、セクハラなど院長のスタッフへの関わり方、将来への展望など複数の要因が重なっています。小規模組織であるが故に、院長の価値観や判断が職場環境に与える影響は大きく日々の積み重ねが離職という形で表面化します。
一方でスタッフが定着している医院では特別なことをしているわけではなく評価や情報共有を丁寧に行い、全スタッフが相談、挑戦しやすい雰囲気を意識的に作っています。スタッフの離職は避けられない問題ではなく、経営の視点で向き合えば改善できる問題です。院長は経営者として職場環境を見直し、スタッフ一人ひとりと向き合う姿勢を持つことが離職の連鎖を断ち切り、安定した歯科医院経営に繋がっていきます。
スタッフ定着や組織づくりを体系的に学びたい院長先生には、ORTC on-lineの歯科医院経営・人材マネジメント関連セミナーが有効です。現場視点と経営視点の両方から学ぶことで、自院に合った改善策が見えてきます。

Q&A
Q1.スタッフが辞めていく歯科医院の特徴は?
A.人が辞める職場は、人間関係の悪さ、長時間労働の常態化、給与の低さ、不公平な評価、ハラスメントの蔓延、上層部の問題(ワンマン、コミュニケーション不足)、キャリアの閉塞感、研修制度の不備などが特徴で、従業員の心身の疲労とモチベーション低下を招き、結果として優秀な人材から離職が進み、組織が疲弊する傾向にあります。
Q2.歯科医院の離職率は?
A.歯科医師自体の離職率の具体的な数値は歯科衛生士ほど明確ではありませんが、歯科業界全体として専門職(歯科衛生士、歯科技工士)の離職率は非常に高く、歯科医師も人間関係、待遇不満、キャリアアップ(開業)、ライフイベント(結婚・出産)などを理由に離職・転職を経験するケースが多いです。特に女性歯科医師は出産を機に離職する割合が高く、歯科医院側にはスタッフの定着率向上のための待遇改善や教育体制の整備が求められています。
Q3.歯科医院で起こりやすいトラブルは何ですか?
A.人間関係、とくに院長・先輩による度を超えた叱責や無視などのパワハラ・セクハラ、評価の不公平さや業務上の負担が原因で、トラブルに発展するケースが見られます。
Q4.スタッフが長続きするコツは何でしょうか?
A.離職の原因で一番多くを占めるのは人間関係です。スタッフ同士はもちろん、院長にも意見や悩みを言える心理的安全性を高めることが大切です。
また、福利厚生や昇給なども定期的に見直しましょう。
歯科衛生士ライター 東雲あや

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