
訪問歯科・在宅栄養指導の実践ポイント
栄養ケア計画書はどう作る?
PES報告から具体的介入までの整理法
「栄養ケア計画書に何を書けばよいのか」
「栄養診断やPES報告を、どのように計画へ落とし込めばよいのか」
訪問栄養食事指導では、アセスメント、栄養診断、目標設定、具体的な支援内容を一貫させることが重要です。特に在宅療養の現場では、本人・家族・主治医・ケアマネージャー・ヘルパー・歯科など、多職種が同じ方向を向ける計画書づくりが求められます。
栄養ケア計画書は、単なる記録用紙ではありません。管理栄養士が、対象者に対してどのように栄養ケアを進めていくのかを示す「設計図」のような役割を持ちます。
計画書の内容が整理されていれば、本人や家族にも支援の方向性を説明しやすくなります。また、主治医やケアマネージャーに対しても、栄養課題、支援方針、具体的な介入内容を共有しやすくなります。
歯科医師・歯科衛生士にとっても、栄養ケア計画書の考え方を理解しておくことは重要です。嚥下機能、食事形態、口腔内環境、食事姿勢、食事介助など、歯科が関与できる場面は多くあります。
本記事では、訪問栄養食事指導における栄養ケア計画書の作成手順を、PES報告、長期目標・短期目標、具体的介入、多職種共有の視点から整理します。
この記事で整理すること
- 栄養ケア計画書に記載する基本項目と作成の流れ
- PES報告を計画書の「解決すべき課題」へ落とし込む考え方
- 長期目標・短期目標・具体的介入を一貫させる方法
ポイント①:栄養ケア計画書は、指導前に立案・交付する
管理栄養士による居宅療養管理指導では、栄養指導を始める前に栄養ケア計画を立案し、利用者または家族に交付することが求められます。
つまり、訪問してその場で助言するだけではなく、事前に「どの課題に対して、どのような方針で支援するのか」を整理しておく必要があります。そして実際の栄養管理や栄養食事相談は、その栄養ケア計画に沿って行います。
また、栄養ケア計画は管理栄養士だけで完結するものではありません。主治医の指示に基づいて作成し、必要に応じて主治医、ケアマネージャー、家族、多職種と共有しながら進めていきます。
基本項目 1
利用者情報・作成情報
栄養ケア計画書には、利用者名、作成日、計画変更日、作成者である管理栄養士名などを記載します。計画は一度作って終わりではなく、見直しや更新を前提に管理します。
基本項目 2
医師の指示と本人・家族の意向
居宅療養管理指導では、医師の指示が必須になります。指示の有無、指示内容、指示日を記載し、あわせて利用者本人や家族の希望・意向も整理します。
基本項目 3
解決すべき課題と栄養ケア内容
解決すべき課題には、栄養診断やPES報告を記載します。そのうえで、低栄養状態のリスク、長期目標、短期目標、具体的な栄養ケア内容、担当者、特記事項を整理します。
歯科医療従事者が押さえたい視点
栄養ケア計画書には、食事形態、嚥下機能、口腔内環境、食事姿勢など、歯科が関与しやすい情報が含まれる場合があります。計画書を読むことで、歯科側がどの情報を共有すべきか、どの支援に関与できるかを判断しやすくなります。
ポイント②:PES報告を「解決すべき課題」に落とし込む
栄養ケア計画書を作成する前提として、栄養アセスメントと栄養診断があります。栄養診断では、栄養評価をもとに対象者の栄養状態を総合的に判定し、栄養診断コードを用いて課題を整理します。
その栄養診断を、関係職種が理解しやすい形で記載する方法がPES報告です。PES報告は、栄養ケア計画書の「解決すべき課題」に記載します。
PES報告 1
P:問題・栄養診断名
対象者にどのような栄養上の問題があるのかを示します。栄養診断コードに基づき、課題を標準化して表現します。
PES報告 2
E:原因・要因
その栄養課題が起きている原因や要因を整理します。たとえば嚥下障害、食事形態の調整不足、調理方法の知識不足などが該当します。
PES報告 3
S:根拠となるアセスメントデータ
栄養診断を決定する根拠となる情報を記載します。身体状況、摂取栄養量、食事状況、本人・家族・介護者から得た情報などをもとに整理します。
PES報告は、「Sの根拠に基づき、Eが原因となったPの状態と栄養診断できる」という形で整理します。このように書くことで、栄養診断の根拠、栄養状態を悪化させている原因、現在の課題を関係職種が共通して理解しやすくなります。
動画内の症例では、嚥下障害があり、ヘルパーが食事形態の調整に困っているケースが示されています。この場合、単に「食べにくい」と整理するのではなく、嚥下機能、食事形態、調理方法の理解、介護者側の支援体制を踏まえて、栄養診断とPES報告を組み立てます。
講義では、PES報告に絶対的な正解があるというよりも、これから立てる栄養ケア計画の内容と一致していることが重要だと説明されています。課題、原因、介入内容が連動しているかどうかを確認することがポイントです。
ポイント③:低栄養リスクと支援上の課題を整理する
栄養ケア計画書では、低栄養状態のリスク分類も記載します。講義では、厚生労働省のアセスメントシートに基づき、BMI、体重減少率、アルブミン、食事摂取量、栄養補給法、褥瘡などの項目から、低リスク・中リスク・高リスクを判定する流れが紹介されています。
たとえば、高リスクに該当する項目があれば高リスク、中リスクに該当する項目があれば中リスク、すべて低リスクに該当する場合は低リスクとして整理します。
低栄養リスク分類で確認する項目
- BMI
- 体重減少率
- アルブミン
- 食事摂取量
- 栄養補給法
- 褥瘡の有無
ただし、リスク分類だけで支援内容が決まるわけではありません。実際の在宅支援では、本人の身体状況、病状、食事摂取動作、介護者の状況、家族の希望、ヘルパーの困りごとなども含めて、栄養管理を難しくしている要因を整理する必要があります。
講義内の症例では、本人が安定して食事を取ることが難しいこと、進行性の疾患により舌を思い通りに動かすことができないこと、家族介護者が高齢であり介護負担が大きいことが課題として整理されています。
臨床判断の目安
栄養ケア計画では、栄養量の不足だけを見るのではなく、「安全に食べられるか」「調理や食事介助を継続できるか」「介護者の負担が過度に増えないか」まで含めて整理することが重要です。
ポイント④:長期目標から短期目標、具体的介入へ順番に設計する
栄養ケア計画書で迷いやすいのが、目標設定です。講義では、まず長期目標を考え、その次に短期目標を設定し、最後に具体的な取り組み内容を決める流れが示されています。
よくある落とし穴は、管理栄養士が「何をするか」から考えてしまうことです。本来は、目標があり、その目標を達成するために何をするかを考えます。
Step 1
長期目標を設定する
長期目標は、最終的に目指す生活や状態を示します。講義内の症例では、家族から「穏やかな生活をしてほしい」という希望があり、「家族と共に在宅生活を続ける」という長期目標が設定されています。
長期目標は、単に栄養量や体重だけでなく、本人や家族がどのような生活を望んでいるかを踏まえて設定します。
Step 2
短期目標を3つの視点で整理する
短期目標は、長期目標に近づくための当面の目標です。講義では、栄養補給・食事、栄養食事相談、多職種による課題解決の3つの視点で整理する方法が紹介されています。
栄養補給・食事:必要な栄養を取ることができる
栄養食事相談:嚥下機能に合わせた食事形態の調整ができる
多職種による課題解決:安全な環境で食事をすることができる
Step 3
具体的な栄養ケア内容を決める
短期目標を設定したら、その目標を達成するために何を行うかを決めます。誰が、どのような内容を、どの程度の頻度で行うかまで整理すると、多職種で共有しやすくなります。
「目標を立てる」だけではなく、その目標に向けて、管理栄養士、家族、ヘルパー、歯科、PTなどがどのように関与するかを具体化します。
ポイント⑤:具体的介入は、PES報告の原因に対応させる
栄養ケア計画書では、PES報告で整理した原因に対して、具体的な介入内容が対応していることが重要です。
たとえば、嚥下機能や食事形態の調整機会の不足が原因となっている場合、計画書の具体的介入には、嚥下評価、食事形態の確認、調理方法の説明、ヘルパーへの共有などが含まれている必要があります。
介入内容 1
必要な栄養を取るための支援
目標栄養量を設定し、定期的に献立を確認します。不足している栄養があれば助言し、水分が摂取しやすいように水分ゼリーなどの提供も検討します。また、食思や嗜好を確認するため、ヘルパーや家族との情報共有も行います。
介入内容 2
嚥下機能に合わせた食事形態の調整
嚥下評価を歯科と連携して行い、嚥下調整食の調理方法をヘルパーへ伝えます。必要に応じて、市販食品や購入食品についても助言します。
介入内容 3
安全な食事環境を整えるための連携
食事時の姿勢についてPTなどと調整し、食事介助の方法をヘルパーに共有します。また、口腔内の環境について歯科医師と情報共有し、安全に食事を続けるための支援につなげます。
ここが実践ポイント
計画書を作成した後は、PES報告で示した原因に対して、具体的な介入内容がきちんと対応しているかを確認します。課題と介入がずれていると、書類としては整っていても、実際の支援につながりにくくなります。
栄養ケア計画書は、本人・家族・主治医・ケアマネージャーと共有する
栄養ケア計画書が完成したら、本人や家族に説明し、同意を得たうえで共有します。また、主治医やケアマネージャーにも控えを渡し、支援の方向性をそろえることが大切です。
講義では、栄養ケア計画書は本人・家族、主治医、ケアマネージャーに共有することが説明されています。これは、在宅支援が単独職種だけでは完結しないためです。
歯科医療従事者の立場では、管理栄養士が作成した計画書を通じて、栄養課題、嚥下に関する課題、食事環境、口腔内の問題がどのように整理されているかを把握できます。
医院で導入する際の確認ポイント
- 管理栄養士と歯科医師・歯科衛生士の情報共有ルートを決めておく
- 嚥下機能、口腔内環境、食事姿勢など、歯科側が確認できる項目を整理する
- 家族やヘルパーへの説明内容を、専門職間で統一する
- 計画の見直し時に、歯科側から共有すべき変化がないか確認する
まとめ:栄養ケア計画書は、多職種で支援をそろえるための設計図
栄養ケア計画書は、単なる書類ではなく、対象者の栄養課題を整理し、支援の方向性を関係者で共有するための重要なツールです。
アセスメント、栄養診断、PES報告、長期目標、短期目標、具体的介入がつながっていることで、在宅での栄養管理が実践しやすくなります。
特に訪問歯科の現場では、嚥下機能、口腔内環境、食事形態、食事姿勢など、歯科が関与できる領域が多くあります。管理栄養士との連携を深めることで、患者さんが安全に食べ続けるための支援につながります。
ORTC PRIME会員対象動画
Step11 栄養ケア計画書の作り方と具体例

ORTCでは、訪問栄養食事指導における栄養ケア計画書の作成手順を、具体例を交えながら学べる動画を配信しています。
PES報告をどのように計画書へ落とし込むのか、長期目標・短期目標をどう設定するのか、さらに歯科やケアマネージャー、ヘルパーとの連携をどのように整理するのかを理解したい先生・スタッフにおすすめです。
動画を視聴する
ORTC PRIMEで臨床知識を継続的にアップデート
まだORTC PRIMEに登録していない方は、会員プランをご確認ください。歯科医師として必要な臨床知識・経営スキルを、月額定額で学べます。
▶ ORTC PRIMEの会員プランを確認する
ORTCは「笑顔の役に立つ」を理念に、歯科界の知識を共有する場を目指しています。歯科医療の現場で役立つ最新の知識と技術を提供することで、臨床と経営の両面からクリニックの成長を支援します。最先端の技術解説や経営戦略に特化した情報を集約し、歯科医療の現場での成果を最大化。自己成長を追求するためのコンテンツをぜひご活用ください。